相談解決事例

裁量労働制の問題は、裁判での判例が少なく、また法律の抜け道が多いため、労働基準監督署では、解決しないことも多いです。各種相談機関では解決せずに、裁量労働制ユニオンにたどり着いた方も少なくないです。ユニオンでは、残業代請求はもちろん、長時間労働の改善も求め団体交渉をし、実際に解決しています。

裁量労働制ユニオンでの団体交渉で過去に解決した事例の一部をご紹介します。

 

(1)スマートフォンゲーム制作会社の解決事例

スマートフォンゲーム制作会社でゲームの宣伝業務を担当していた女性(Aさん)の事件です。

Aさんは入社一ヶ月目から月約70時間の残業をさせられ、休憩もしっかり取れず、休日出勤もあり、長い月だと約100時間の残業をさせられていました。ストレスで連日3、4時間しか眠ることができず、入社直後から頭痛を発症するなど体調を崩して、適応障害と診断されました。徹夜で深夜5時ごろまで勤務することもありました。

Aさんは当初、東京労働局のあっせん委員の弁護士や、法務省の無料相談窓口である法テラスから紹介された弁護士に相談していたのですが、いずれも退職勧奨に着目するだけで、裁量労働制の問題には一言も触れなかったそうです。また、会社側とのやりとりを実際に行ったものの、やはりいずれも不調に終わりました。

その後に相談を受けたユニオンでは、Aさんの労働実態について、じっくり聞き取りを行いました。その結果ユニオンは、裁量労働制が彼女には違法に適用されていたことを突き止めました。会社は、Aさんについて「ゲームの創作」、つまりゲーム開発の業務をしているとして専門業務型裁量労働制を「適用」していましたが、実際の担当業務はゲームの宣伝業務であり、具体的には、ゲーム体験イベントの実施や、ウェブサイト・SNSの運用などの業務を行っていました。ゲーム会社であっても、開発業務以外は裁量労働制の適用が禁止されています。

ユニオンでは、当事者から業務内容を詳細に聞き取ったリストを添えて労働基準監督署に申告し、Aさんには裁量労働制が適用されず、みなし労働時間にかかわらず残業代が払われるという労基署の判断を出させました。さらに、この労基署の行政指導を用いて、ユニオンは会社と交渉を続けました。加えて、同社では45時間分の固定残業代も適用されていたので、それが無効であり、残業代は1円も支払われていないとして交渉を続けました。

会社は最終的に、未払い残業代分等の清算を認め、本人の納得できる金額での勝利的和解をすることができました。団交申入れから約2ヶ月での解決でした。

 

(2)編集プロダクションの解決事例

編集プロダクションで編集・ライターとして勤務していた女性(Bさん)の事例です。

 Bさんは繁忙期には深夜1時半まで勤務し、朝6時に出勤するなどして月100時間の残業をした結果、職場で痙攣を起こして意識を失い、救急車で運ばれてしまいました。こうした長時間労働と上司からのパワハラによって、本人は適応障害になってしまい、退職を余儀なくされました。

Bさんは残業代を支払われていませんでしたが、裁量労働制という説明は受けておらず、契約書にもそのようには書かれていませんでした。ところが、就業規則には全従業員に専門業務型裁量労働制を適用すると明記されており、専門業務型裁量労働制の労使協定も存在していました。業務内容についても、編集業務やライター業務は裁量労働制の対象となります。労働基準監督署に相談しても、裁量労働制が適用されていることは確かで、残業代を払わせるのは難しいという回答でした。

しかし、実はBさんは出版業界は同社が初めてで、先輩に業務を教えてもらいながら働いており、一人で書籍一冊を制作するだけの知識や経験がありませんでした。相談を受けたユニオンはこのことを理由に団体交渉で、それまでの裁量労働制は無効であり、残業代が支払われるべきであることを会社側に認めさせました。また、固定残業代も適用されていましたが、これも無効であると交渉で要求しました。その結果、本人の納得できる金額での和解を勝ち取ることができました。

 

(3)都内デザイン制作会社の解決事例

都内デザイン制作会社でデザイナーとして働いていた女性(Cさん)の事例です。

Cさんはデザイナーとして勤務していましたが、裁量労働制のもとで、長時間労働が当たり前となり、残業だけで月80時間近く働くことが常態化し、長い時は月100時間を超えて働くこともありました。

また、裁量労働制にも関わらず、実際の働き方に裁量があるとは感じられませんでした。Cさんによれば、「明日までにやって」などと、急な締め切りで仕事が振られることも多く、自分で仕事の進め方を決めることはできませんでした。このように、実際には裁量のない働き方であったことが、長時間労働の一因になっていたと考え、Cさんはユニオンに加入することを決め、未払い残業代の支払いと長時間労働の改善を求めて団体交渉することにしました。

ユニオンとの団体交渉の結果、会社はこれまでの裁量労働制の適用に問題があったと認め、過去の未払い残業代に対応して解決金を支払うことになりました。また、社内のすべてのデザイナーに対して、裁量労働制の適用を廃止することを約束しました。これは非常に画期的な改善です。さらに、長時間労働の背景の一つとして、クライアントからの緊急な依頼が挙げられます。夜にクライアントから、その日または翌日午前の納品を依頼されるという緊急の発注依頼が来てしまい、担当者が断れずに受け、業務が深夜に及んでしまうという問題がありました。このため、クライアントに制限をかける改善策を約束させることもできました。

 

(4)建築設計事務所の解決事例

建築設計事務所で、建築設計の仕事をしていた女性(Dさん)の事例です。

Dさんは新卒で入社した当初から裁量労働制を適用されていました。入社3ヶ月ですでに残業時間が月100時間を超え、最長で月180時間の残業をすることもありました。みなし時間は1日8時間とされていましたが、実際には1日20時間近く働くことは珍しくなく、日付を越えて30時間近く働くこともありました。適応障害を発症し休職するまでの期間の約7割の月で過労死ラインの月80時間を超えていました。

長時間労働の原因の一つとして、実際には裁量がなかったと思われる働き方がありました。22時ごろに「明日までやるように」という指示を受けて業務をまかされ、深夜作業や徹夜作業をせざるを得なくなることや、設計図面や完成予想図を伝えるCG画像などを作成しても上司や社長がなかなかOKを出さず、何度もやり直しをさせられてしまうことがありました。

Dさんは、裁量労働制ユニオンに加入し、未払い残業代や長時間労働の改善を求め会社と団体交渉をはじめ、納得のいく内容で和解しました。また、会社は裁量労働制の全社的な廃止に踏み切りました。

 

(5)芸能事務所マネージャーの解決事例

芸能事務所で勤務していた20代のアシスタントマネージャーのEさんの事例です。

Eさんは、入社1年目からアーティストのアシスタントマネージャーとして勤務しており、専門業務型裁量労働制を適用されていました。その後は物販担当に異動になりましたが、専門業務型裁量労働制を適用できる対象業務の「デザイン業務」に当てはまるとして、やはり専門業務型裁量労働制が適用されていました。裁量労働制を適用されたことで、Eさんは最大200時間の時間外労働を行うこととなり、残業代未払いも発生していました。

Eさんはユニオンに加入して、残業代の支払いを求めて芸能事務所と団体交渉を始めました。

裁量労働制は、上司の指示を受けずに、業務の遂行や時間配分について、裁量をもっている労働者に対してのみ、適用できる制度です。入社したばかりで一人で業務を行うための経験や能力の十分でない労働者や、上司から指示を受けながら、そのアシスタントとして業務を行う場合は、対象者として適切ではありません。また、実際に行っていた業務内容が、厚労省の定めた対象業務から外れる場合も、裁量労働制を適用することはできません。これらの条件に違反している場合は、過去の裁量労働制の適用が無効となり、残業代を取り返すことができます。

団体交渉の結果、Eさんに対して芸能事務所から納得できる金額の解決金が支払われました。また、Eさん以外の現在勤務している労働者の裁量労働制に対しても、改善がなされました。物販担当に対してはもちろん、上司から指示を受ける、入社3年以内のアシスタントマネージャーについて、専門業務型裁量労働制の適用を外すという改善策を約束させました。