裁量労働制Q&A

Q 私の会社では、ずっと裁量労働制が適用されていますが、ちゃんと説明された記憶がありません。

A 手続きで裁量労働制が無効になるケースがあります。以下に、代表的な例を挙げます。

(1)職場に労使協定か、労使委員会の決議・議事録がない

専門業務型裁量労働制を導入するためには、労働者の代表が経営者の労使協定を結んでいなければなりません。さらに、協定は「事業場単位」、つまり店舗や支社、支店などで逐一結ばないといけません。「協定は本社にある」「隣の支社で一括して結んだ」などは、すべて無効となります。

企画業務型裁量労働制を導入するには、労使委員会の決議がない場合や、決議を労基署に届け出ていない場合は無効になります。決議だけでなく、委員会の議事録が作成・保存されていない、あるいは労働者に周知されていないのならば無効です。

(2)労使協定を結ぶ・労使委員を選ぶための、過半数の代表を適切に選んでいない

専門業務型の場合、裁量労働制の労使協定を結ぶためには、対象となる労働者の過半数の代表を選んでいなければなりません(過半数を占める労働組合でも可)。このプロセスに過半数の労働者が関わっていなければ、その協定は無効です。会社が勝手に代表を決めている際は論外ですし、会社が候補者を社内で閲覧させて、異議がある場合だけ回答を求めている場合などはアウトです。

企画業務型の場合、労使委員会の労使委員の半数は、労働者の過半数の代表(過半数を占める労働組合でも可)によって指名を受けていなければなりません。その指名を行う過半数代表は、専門業務型同様に、やはり過半数の労働者が選んでいなければ、裁量労働制は無効になります。

(3)就業規則に具体的な説明がない

労使協定や労使委員会の決議があっても、就業規則にその具体的な内容が書いていなければ無効です(労働組合があるときは労働協約でも可)。就業規則に書かれていることではじめて、協定や決議が労働条件に反映されることになります。

 

Q プログラマーなど、裁量労働制を適用してはいけない職種があると聞きましたが、本当ですか?

A 対象業務外の業務を行わせている場合も、裁量労働制が無効になります。

専門業務型裁量労働制が対象とする業務は、19業務しかなく、それも細かく限定されています。
たとえば、ゲーム制作会社では「ゲーム用ソフトウェアの創作の業務」が認められています。この規定を利用して、株式会社サイバードでは、社員に裁量労働制を適用していましたが、実は「体験イベントの開催」「ノベルティ制作や商品企画」」などを担当している社員まで裁量労働制の適用としており、無効になりました。デザイナーも、厚労省の規定では「考案されたデザインに基づき、単に図面の作成、製品の制作等の業務を行う者は含まれない」とされています。レイアウトやフォントを修正するだけ、などの業務が多い場合は無効になります。
プログラマーも、厚労省によれば「専ら他人の具体的指示に基づく裁量権のないプログラミング等を行う者」は含まれないとされています。
専門業務型裁量労働制の対象業務について、詳しくは以下の資料の3~6ページをご確認ください。

東京労働局「専門業務型裁量労働制の適正な導入のために」
http://tokyo-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/library/senmonsairyou.pdf

企画業務型裁量労働制の対象業務は、抽象的ですが、事業の運営に関する事項(対象事業場の属する企業・対象事業場に係る事業の運営に影習を及ぼす事項)についての業務であり、「企画」、「立案」、「調査」及び「分析」という相互に関連し合う作業(この4つすべて)を組み合わせて行い、それを個々の労働者が担当する業務でなければなりません。それ以外は対象外となります。
また、労働者が「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」でなければ対象外です。
専門業務型も企画業務型も、対象業務をしていたとしても、対象業務以外の業務に恒常的に就かせていた場合は、やはり無効となります。

 

Q 裁量労働制のはずなのに、定時に来るように言われたり、早く帰ろうとすると残業するように言われたり、裁量なんてありません。

A 会社や上司が労働時間や業務の遂行方法について具体的な指揮命令をしている場合、裁量労働制は無効となります。

目安として定時を定めることじたいは許されますが、それを守るように指示してはいけません。「遅刻」や「早退」を理由に賃金を減らすようなことはもってのほかです。
就業規則で離席規制などの細かい服務規律があったり、業務遂行のための時間配分や遂行方法を指示したりしていてもいけません。
タイトな納期を設定されていたこと、厳しいノルマを設定されていたこと、対象業務以外に営業活動までさせられていたこと、下請であってシステム設計の一部しか受注しておらず裁量がなかったことなどを理由に、システムエンジニアが裁量労働制を無効とされた判決があります。
管理者による進行管理、作業内容の具体的指示、そして参加が不可欠な打ち合わせ会議があったことから、労働局が裁量労働制を無効と判断したケースもあります。
これ以外にも、みなし労働時間と比較して実際の労働時間が長すぎる場合も、それをもって無効になる可能性があります。