株式会社サイバードは、「イケメン戦国」「イケメンヴァンパイア」などのイケメンシリーズ、「名探偵コナン」「黒子のバスケ」など人気アニメのスマートフォン向けゲーム制作等を手がけるIT企業です。
裁量労働制ユニオンでは、退職者の相談を受けて、2017年7月から同社と団体交渉を始めています。主な要求は、以下の二つです。
(1)裁量労働制の無効による残業代請求。
(2)裁量労働制にもかかわらず、就業時間を逸脱した労働時間をしていたことを理由として退職勧奨を行ったことに対する補償。
労基署の申告もサポートして、同年8月には渋谷労基署による裁量労働制無効の指導及び、それに伴う労働基準法違反の是正勧告が出ています。
■事件概要
サイバードの裁量労働制
Aさんは、2016年に株式会社サイバードに入社しました。Aさんは、専門業務型裁量労働制を適用されると説明されました。条件は以下の通りです。
(1)対象業務:ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
(2)みなし労働時間:1日10時間8分
最大月100時間残業の長時間労働で適応障害に
Aさんは入社1ヶ月目から、勤怠記録にあるだけで70時間以上、約80時間の時間外労働をすることになりました。また、休憩はほとんど取れておらず、合計すると時間外労働が100時間を超える月もありました。上司の指示を受けて徹夜での業務を余儀なくされたこともあり、イベント開催の直前には記録をつけないで休日出勤することもありました。こうした長時間労働により、Aさんは適応障害と診断されています。
裁量労働なのに定時を守らないことで退職勧奨、勧告後も賃金支払いを拒否
同社は、労働基準監督署に是正勧告を受けた後も、Aさんに未払い賃金を支払うことを拒否しています。その理由として、債権がないことを認めさせる退職合意書を結ばせたことを挙げています。
裁量労働制を適用されていたことになっていたにもかかわらず、長時間労働で適応障害になったAさんが就業時間から大きく外れた出勤をしていたことを理由として、同社はAさんを退職勧奨で辞めさせています。実際にAさんは勤務時に上司や人事から、定時前に「遅刻」の連絡をしなかったことを指摘されたり、「定時時間を逸脱しての勤務をしないように」「きちんと10時〜19時で勤務してください」などの指示を受けていました。
同社では、就業時間が10〜19時とされていましたが、裁量労働制の対象者については、雇用契約上は「基本とし労働者の決定に委ねる」とされていました。
さらに、上記の退職勧奨、合意書へのサインは、強要といえるものでした。人事部長がAさんを突然部屋に呼び出して、その場で解雇か退職勧奨を選ばせています。そのうえ、このまま解雇になると、解雇されたという情報が流出する可能性があり、「個人情報はもろいもの」「経歴に傷がつく」と脅し、圧迫したうえでサインさせたものでした。
■労働基準監督署の行政指導
渋谷労働基準監督署が2017年8月14日付で、下記の内容の行政指導を出しています。
Aさんの業務を専門業務型裁量労働制の対象外であるとして指導
同社はAさんの業務を、専門業務型裁量労働制を適用できる「ゲーム用ソフトウェアの創作の業務」としていましたが、実際は「ノベルティ制作や商品企画」「ゲームの体験イベントの開催」、さらには「ゲーム宣伝用のサイトおよびSNS運用」など、ゲームソフト開発とは全く無関係な、裁量労働制が許されない業務に従事させていました。このことを理由として、労基署はAさんに裁量労働制がそもそも適用されていなかったものと判断しました。
二つの労働基準法違反の是正勧告
Aさんの裁量労働制が適用されていないと判断されたため、以下の勧告が出されました。
(1)労働基準法32条違反:36協定で定めた時間外労働の上限70時間を超える時間外労働が行われていた。
(2)労働基準法37条違反:月45時間分の時間外労働に対応するとされる「裁量労働手当」を払われていたが、月45時間を超える時間外労働があり、時間外労働手当が払われていなかった。